1998 のメモ

 「キャッチワールド」についてのメモ 


クリス・ボイス著  冬川 亘 訳  早川文庫SF

 クリスタロイドの攻撃から全滅を免れた人類は復興後、 敵本拠地アルタイルに報復艦隊を向ける。 恒星を破壊し敵を殲滅する計画。 だが出発まもなく艦隊は大破。残った艦《憂国》はアルタイルに向かうが、 艦内では艦長田村やその他クルーの対立、 艦管理のMI《機械知性》の横暴が発生していた……

 SFの中でもワイドスクリーンバロックというジャンルの作品。 もっともジャンルというよりは誉め言葉の類になっているかも。 定義はあるけど満たしかつ“スゲェ”出来の作品以外にこの 言葉が使われることはあまりないので。
 またジャパネスク作品としても紹介される。 権力をもつ法華宗の集団や忍者、侍といったモノが現れるが もちろん単なる勘違いでなく「知っててやってる日本人像」と 称される凝ったもの(同時期に翻訳された「禅銃」「スターシップと俳句」 なんかも“知っててやってる日本人像”かつ奇抜な作品だったけど)。

 クルーの人格を含めシミュレーションを繰り返し 精度を高め使命を果たそうとするMI。 共同統治体により計画的選別され条件付けされた クルー達の人体的/性格的特徴。 MIと田村たちとのコミュニケーション、仕組まれた確実に訪れる死と シミュレーションによる統合された生。 人道的なことを捨てた身も蓋もない展開に圧倒され飲み込まれる。

 初めて読んだ当時は(プログラム覚えて1,2年だったせいか) 一見冷徹な、人格等のソフトウェアの扱いかたが非常に心地よくって “こういうSFをもっと読みたいっ”と思ったのを覚えている (その直後のサイバーパンクブームは願ったりだった)。

 原書の発表年は1975年とありパソコンなんてまだない 時代だからしコンピュータサイエンスを学んだ/やってた人なのか 大型機かミニコンあたりを実際にさわってた人なのか…… OSとか人工知能とかの専門かなにか……とにかくすごく プログラマ的に感じた。

 宇宙船を司るコンピュータの反乱、と考えると「2001年宇宙の旅」(1969) と対比できるのかもしれない。発表年代的には十分に影響ありそう。 HALに対して何か思うところがあったから MI の対人対応ぶりや行動が ああなったのかもと想像してしまう。

 あと「人類補完機構」のファンになってから読み返したとき 共同統治体や人類の扱い方が補完機構にダブってしまい、 そのせいか最終章(コーダ)の1行目、
“ルルケッターは怒っていた”
ってのに思わず狂喜乱舞してしまった。いや単なる偶然なんだろうけど。 (けど読んでいてもおかしくないだろうし。そう思う人って他にいないかなあ)

 作者のクリス・ボイスは英国の人で日本で出てる本は、恐らくこれのみ。 あと少なくともSFマガジンに一度短編が訳されてたのは見た覚えがあるが 他にあるかどうかは不明。  “この一作でSF史に名を残した”みたいな言われ方をすることも あるので……。

 と。
 くやしいまでにかっこよくて圧巻の「キャッチ・ワールド」紹介/解説が 航天機構の"読書"の とこにある。 “「なにがなんだかわからなかった」という諸兄もこれでOK!” とあって、既読の方向けだけど、 章ごとに丁寧に解説されてて分量も内容も読み応えあり。

(もうこれみて“オレも”的に書いてはみたのがこれだけど……ぜんぜんダメですね)

1998